シャリシャリと音を立てて淡い味の西瓜を食べるカブトムシ、みたいな。シャリシャリと音を立てて私の知覚を齧っていく何か、みたいな。何かが私の現実を啜る音、みたいな。平板になってく世界、みたいな。歪む空間、みたいな。ずれ、みたいな。眩暈、みたいな。みたいな。みたいな。

 

長期的に見ればよくなっていると信じているのですが、やっぱりそうあって欲しいですし。(うん。)でも短期的にみると日に日に悪化というか、うん、や、うん、悪化していっている感じしかしないんです。それが正直凄く怖くて。(そうでしょうね。)何ていえばいいのか、なんていうのかなあ、すみません、なんていうか、んー、全身が布に包まれてるみたいな、何か白い布みたいな、そういうの越しに全部の知覚があるって言えばいいのか、(はい。)十代の頃からそういうのは、たまにあってたんですけど、それこそ数か月に一回とか、その位の頻度で不定期に、(うん。)でも四月に入ってから、指数関数的に増えていって、(はい。)もう毎日、毎日何回もそういう感じになっちゃうようになっちゃって。(そういう感じに?)はい、例えば手をつねっても、確かに痛いんですけど、それが私の痛みなのかいまいちよく分からないんです。そういう。(うん。)映画を見てるみたいなんです。例えば、こうやって手を動かす時、当たり前ですけど、私が意図して動かしているわけじゃないですか。(もちろんそうですね。)でも、そうなっちゃったら、私から見える私の手を私が動かしてるみたいな、そういう実感?みたいなの、そういうのが全くなくなっていって、(繋がってない感じがするっていう感じですかね?)そうですね、手と脳が繋がってるのか分かんない、身体と精神が切断されている、うーん、(うん。)視界にある手が誰のものなのか実感としてよく分かんないんです、常識的に考えて私の手なのに。私が後ろに引っ張られていって、幕を隔てている。うーん。とにかく、視界が、私じゃない誰かの手元だけ映してるみたいな、変な映画みたいな感じしかしないんです。私はただそれを画面越しに見ている感じしかしないっていうか、(うん。)酷い時は、高熱、例えばインフルエンザになって高熱が出た時って、空間がこう、変な感じになるじゃないですか。(そうですね。)一番酷い時は、そんな感じもあって、なんか、空間が歪んで見える、見える?見えるって言っていいのか、ちょっと分からないんですけど、とにかく、感覚として、空間が膨張していくっていうか、とにかく歪んでる?ん、や、はい、歪んでるんです。(そっかー。)酷い時は、聴覚も、ほんとに布越しに聞いているようなかんじになっていって、(うん。)それが酷い時と軽い時みたいなのは勿論あるんですけど、で、なんか、とにかく、画面酔いっていうか、そういう画面越しの認識と自分?自分、まあ、自分か。自分がずれてるので、そのずれに酔って、眩暈がして、吐き気がして、偏頭痛がして、とにかく気持ち悪いんです。(そうでしょうね。)最悪、なんというか、そういう変な感覚があっても別にいいんです。(はい。)でも実際眩暈がして気分が悪くなるってなるとちょっと。(それはきついですね。)はい、ちょっと。(うーん、それがずっとある感じですか?)はい、最近はずっとあって、何かに集中していると大丈夫なんですけど、ちょっとでも気を抜くと、そういう風になっちゃう感じで。(そっか。)はい。…現実感がない、ない、現実感がない?いや、勿論私がいるのはどう考えても現実だと理解はしていますが、でもこれは夢だと言われた方が「あ、そっか」ってなるというか、説得される感じが。(そういう感じがある?)あります。(うーん、そうですか。そんなことに。)はい。

こういう話を医者とした。私が言ってる事って客観的にみたらどうなるのかな、と思って、あと今日は文章が上手く書けないので、再現してみたけど、本当はもっと混乱してて順序もぐちゃぐちゃだった。でも、とにかくこういう話をした。最近はもう手を握っても意味がない。誰の手かいまいちよく分からない手を握って何の確認ができるのか。今は手や喉をつねって確認している。生じた痛さを自分の痛さとして感じられるか、そういった類の事を。歩いていても地面のコンクリートが硬いのか分からない。よく分からない。正常な知覚が、私の現実が、私が、食われている。啜られている。損なわれている。何かに。海底で。見えない所で。

酷い眩暈と気分の悪さと偏頭痛と。

困るのだ。

それらがあると正常に生きていけなくなる。

表面上を取り繕うという事に必死なのに。それを周囲から期待されているのだから。そして私も周囲に期待されるそれを期待しているのだから。私の欲望は他者の欲望か。世界の奥行きがない。スクリーンに映った映像。

文章が上手く書けない。

薬が増えた。

○○が現れている、と言われた。

知らない。聞きたくもない、そんな事。

あなたは自分の同一性を固めるために毎日頑張っていて、緊張している、と言われた。

分からない。でも多分そうかもしれない。それに、信用しているあなたがそう言うなら、きっとそうなのだろう。

緊張しているのを解かなくてはならない、と言われた。

そうかもしれない。なら薬を飲んだ方がよいのかもしれない。

だから薬が増えた。

これから色々起こっていくかもしれないので、薬を飲むというのは一つの方策であると言われた。

これから。

これから。

これから、色々。

色々。

色々って、何。

これ以上何が起こるっていうのか。誰かに首を絞められる自分だとか、自分の後ろ姿だとかのイメージの唐突な挿入というか浮かびがあって、混乱して、そして世界が平板になって、私は私から遠く離れて、知覚が歪んでいって、これ以上の何があるっていうのか。これ以上、どれだけ狂っていくっていうのか。おかしい、そんなの。狂ってる。

よくない。

狂ってる。

怖い。

誰が誰から○○してるの。私が何から○○しているの。何が私から○○しているの。分かんない。なんにも分かんない。意味が分からない。私はどこにいるの。私はどこにいて今何をしてるの。現実はどこにあるの。夢はどこから夢なの。現実と夢の境界線はどこにあるの。

眠りに逃避しても、内容は覚えていないけれどたくさんの夢をひっきりなしに見て、寝た感じはしない。逃避ももうできない。現実が夢のようならば、夢は現実のようなのかもしれない。

恐らく追い詰められている。どうしようもなく。

引き摺って、生きるしかない。

平板な世界と遠くなる私を引き摺って、生きるしかない。

しかない、私、しかない。