絶対全部諦めない

 

 

今日は空が青い。

 

 

絶対この手の中に握りしめていないといけないものを適当にぶらぶらさせて、そのままなくしちゃうかも知れないというのに、よく笑っていられるものだ。椅子の並んだ広い広い部屋に響く人間達の笑い声は、状況に似合わずとても牧歌的で、あの人たちは自分たちのしようとしている事が何なのか、きっと分かっていない。しようとしている事が、作り出そうとしているものが、どれだけ危険で恐ろしい結果を可能性として孕んでいるのか、きっと分かっていない。バイクに乗ったひったくりに大事なものを奪われてからじゃ遅いんだよ、適当にぶらぶらさせて持っちゃだめだよ、奪われないようにしっかり手に握りしめて離さないようにしないとだめなんだよ、という私の考えは今風ではないんだろうか。私がずっと欲しくて欲しくてたまらなくて、ようやく手に入れた大事な大事なそれは、他者にとっては軽く蹴飛ばせるような比較的どうでもいいものだったのだろうか。束となった複数の笑い声がイヤホンを通して聞こえてきた時、私は辛くて悲しくて悔しくて死にたくなった。一瞥もされず複数の足に踏みにじられた気持ちは地面にバラバラに散らばって、絶望感と無力感に打ちひしがれた。泣くしかなかった。

 

決然と生きようと誰かが囁く。

絶対全部諦めない。大事なそれも人類愛も哲学も恋もペットの幸せも私の幸せも、全部諦めない。本当に大好きで本当に大事な人やものを、もしひったくりに掴まれたとしても、絶対手放さない。死んだって手放さない。私は決然と生きると決めたのだ。せっかく手にした大事なものをまた奪われてたまるものか。絶対に誰にも触らせない。私の大事なキラキラ達を穢れた手で触って蹂躙しようとする奴らは許さない。隣人の肩に沢山ぶつかってでも頭から血を流してでも、キラキラだけは死守しないといけないのだ。私の人生のキラキラだけはぎゅっと握りしめていないといけないのだ。だから絶対に全部を諦めない。絶対に全部全部全部諦めない。

さあ、今日を生きよう。