世界が枯れたから、触ると途端にばらける沢山の世界を束ねて逆さ吊りにした。ガサガサのバサバサの茶色の灰色の橙色の黒色の赤色の白色の青色の世界の束は、窓際の風に乗って透明な体液をまき散らしては騒ぐ。その悲痛な叫びの余りの姦しさに耐えきれず、無駄と分かっていてもデスクの上にあったペーパーナイフを手に取って乱雑に切りつけた。しかし世界を切った手ごたえも感触もなく、世界はザラザラとばらけて散って元の場所に戻り、痛みに更に騒いで泣いて姦しさは増すばかりだ。意味がない。武器が何もこの手元にはない。大音量で騒ぎ続ける世界を見つめていると、次第に世界こそが最も醜く、全ての憎しみをぶつけられるべきものであり、駆逐されねばならないものだと錯覚し始める。途端に底に潜む脅迫と暴力がその発露の場を見定め、その歓喜に哄笑し騒ぎ始める。手段としての脅迫と暴力は、欲望と致命的な穢れを餌にして、容易く目的にすり替わる。手段と目的は反転して、パンパンの頭蓋骨の内容物を巻き込みながらミキサーみたいにグルグル回る。グルグル回って、刃に細かく切られて散り散りになって、グルグル回って、手段と目的が何だったっけ?グルグル回って、グルグル回って、グルグル回って、何と何が何だったっけ?グルグル回って、高速で回り過ぎて頭頂が飛んで行って、中のピンクと灰色の中間みたいな色のデロデロした汚い液体が堰を切ってはじけて周囲にぶち撒かれる。途端に吐き出された生臭さでそこら辺りが一杯になって、べた付く液体が壁や床や身体に止め処なくかかって、なんだったったけ?なんだったkつけ?なんだttけk??????空になった頭蓋に誰かに何かを放り込まれて大きな音を立てて蓋を閉められた。さっきまで緑だった空の色が紫になった。ぼんやりピントが合っていって、頭蓋の中の何かと肉体の接続を確かめるみたいに試しに液体の中に浮かんでたピンクのズルズルしたよく分かんない破片を指先でちょっと触ったら、力加減が分からなくて途端にぐちゃりと醜く潰れた。指先がぬるつく。致命的に絡み付く。ああ、そろそろ始めなければ、といつか分からないずっと前に開始の合図を受け取っていたのを思い出し、なんかよく分かんない弾力あるやつの破片とか、透明とピンクが分離しかけたとろみのある液体とか、とにかく吐瀉物みたいな饐えた匂いのぐちゃぐちゃしたやつ、そういうのが身体や壁や床に広がっているのを、接続が上手くいっていない指や手でなんとか掬って、掬えなかった分は唾液を垂らしながら舌で舐めとって集めて、コップに入れて、逆さ吊りにしておいた世界を活けた。ガサガサのバサバサだった世界は途端に潤って美しく濡れて、触っても引っ張ってもばらけなくなった。静かになった。静かしかなくなった。静かすらなくなった。消えた。視線の先にあった筈の世界は消え去り、色んな悪臭が交じり合って淀みきった空気と穢れた肉体と茫漠と広がる時空間だけが残された。日常のよしなしごとだ。

いつもならば次第にふんわりと或る重要な目的を思い出し、汚い身体のままで日常を送り始めるのだが、今日は接続が途切れがちだからか、このべたつきを落とすためにシャワーを浴びなければ、と別の目的を思った。穢れは宿命的に落ちず、蓄積されていくと分かっているからこそ、せめてこの落とす事の出来るべたつきだけでも落とさねば、と身体を起こす。まだ接続の安定してない身体をふらつかせながら部屋にある階段を下りた。白い壁と天井がどこまでも延長されてるみたいに感じて、視界が簡単に斜めになったり平行になったりして、空間把握がうまくできていない。頭蓋の中に何を入れられたのか、よく分からない。今まで分かった試しもない。誰かに何かを乱雑に突っ込まれて、次の日にはぐちゃぐちゃの臭い液体になる。世界は或る形の暴力では黙らず泣き叫ぶ一方で、違う形の暴力で途端に黙り込む。世界は血と脳漿と脳みたいな見た目の何かをめちゃくちゃにかき混ぜた液体を思い切り吸って腹をくちくすれば満足しきって黙り込む。贄を捧げさえすれば、今日の世界も静かになる。明日の世界も、明後日の世界も、10年後の世界も、1000万年後の世界も、万人がサクリファイスから逃れられなくて、そういう形の暴力と諦めを通してでしか世界は存続できないと誰かに決められているのなら、誰かの吹き込んだグロテスクな手法に従って、毎日永遠そこかしこで世界は束の間の生き残りを手に入れ、そうやって美しさを取り戻すのだろう。無邪気なシステムだ。階段に添えられてある手すりを両手で掴みながら、時間をかけて階段を降りきった。小便をしたいという事に気付いたので、シャワーを浴びる前に、倒れかけながらトイレに入って、なだれ込むように便器に座った。ズボンと下着を脱ぐのを忘れていたので、座ったまま脱いで、脚をふって床に放り投げた。視界が縦に横に斜めにとガチャガチャと忙しないので目を瞑った。小便が便器に当たる音を聞きながら、ふと煙草を吸おうと思って、カーディガンのポケットの中で手をうろつかせてみたけれど、昨日ポケットに入れた筈の煙草の箱はどこかに行ってしまったようだった。具体的対象は穴に簡単に落ちて吸い込まれていってしまう。不安定だ。服を乱暴に投げ捨て、浴室に入り、シャワーコックをひねる。湯が裸の身体にかかり、べたつきが溶かされ排水溝に飲み込まれていく。このべたつきで排水溝が詰まらないだろうか、と少し不安に思った。

 

「脳みそ爆発。」